下工弁慶号の紹介 2004.3
 阿下喜の街に山口県下松市から小さな緑色の機関車がやってきます。「下工弁慶号」という名の蒸気機関車です。

 ボイラーの上にかまぼこ状の水タンクを載せた超小型の軽便サドルタンク機関車。鉄道ファンの間では親しみを込めて「亀の子」とあだ名されるとても愛嬌のあるスタイルです。

 この機関車の製造年には諸説がありますが、おおよそ1909年から1910年ごろの製品です。メーカーはいまや世界的な重機械メーカーとなったIHI石川島播磨重工業株式会社の前身である東京石川島造船所です。徳山の海軍練炭製造所(後の海軍燃料廠)向けの製品でした。

 その後1934年に海軍燃料廠から教材用にと山口県下松工業高校に提供され、長く同校で保存されてきたものです。

 1981年、下松工業高校の創立60周年の記念事業として、同校に大切に保存されていたこの機関車を実際に動けるようにしようという事になり、桜谷先生をはじめとする4人の先生と生徒等の手によって、10ヶ月あまりの作業で見事に走行可能な状態に修繕されたのでした。

 その後も幾度か元気に走行する姿が報道されていましたが、下松市に移管され今日に至っています。

 東京石川島造船所が鉄道車両の製造を開始したのは1892年、同社の非常に長い歴史の中で意外にも蒸気機関車の製造は軽便用がわずかに27両にとどまりました。「下工弁慶号」はその中の貴重な1両です。

 またその姿は日本の鉄道ファンに人気の高いボールドウィン製(アメリカ)の蒸気機関車のデザインの影響を色濃く残し、非常に特徴のあるものです。

 このたびは三岐鉄道北勢線の90周年にあたり、この貴重な軽便蒸気機関車を山口県下松市からお借りできる事になりました。
 およそ100年にも及ぶ「下工弁慶号」の歴史にも、開業90周年を迎える北勢線の歴史にも新たな1ページが加わる事でしょう。


ASITA(北勢線とまち育みを考える会)
監修 椙山 満 氏

参考文献 金田茂祐著 ボールドウィンの小型機関車
臼井重信著 機関車の系譜図 3巻
鉄道ファン 1982年1月号
とれいん 1988年3月号

誕生から下松まで
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